奈良県立医科大学 キャリアパス・メンター実習2019(分担:地域医療学)


私の担当分の資料です
以下の到達目標です.
到達目標
1)地域医療=へき地医療と捉えられてしまう理由について考えることができる
2)奈良県における地域医療の特徴に関心を持ち自身で調べることができる
3)臨床研修における地域医療研修の意義について説明できる

1.地域医療学について

「地域医療」は非常に多義的.
『「地域に根ざした医療」という定義もまた抽象的・変動的であるため,その意味する具体的内容は時代背景・社会構造にあわせ繰り返し検討し,適宜再定義を行う必要があると考えられる.』
外山尚吾 池尻達紀 小林 充.地域医療を再定義する―「地域医療のコアを考える会」の取り組み.日本プライマリ・ケア連合学会誌.2018;41(4):191-193.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/generalist/41/4/41_191/_article/-char/ja
著者の研究グループの取組は研究班で事例を持ち寄り議論した中で「コア」を抽出する手法.
故に,その時代及び参加者の属性及び地域における「コア」をとりまとめたもの

医療の実践・社会適用においては常に検討していく姿勢は必要ではあるものの,学問領域として成立するには専門が異なる学術の人々による共通した理論の発展が必要
祖父江孝男.学際的学問の成立.日本不動産学会誌.1995;10(3):41-46
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jares1985/10/3/10_3_41/_article/-char/ja

ちなみに私は以下のように考えています.

「地域医療学は「地域」による状況の違いに起因する住民それぞれの鳥観図の違いを把握し問題を明らかにしていくことで解決への糸口を探索する世界です。全体像を意識しないと、単なるご当地エピソードのオンパレードになりかねません。」
コンソーシアム実習2・地域医療学概論(分担:奈良県の地域医療)(奈良県立医科大学医学部医学科 ・早稲田大学全学共通副専攻「健康・医療」)より

周藤が考える地域(保健)医療学(2016)
1)集団(地域)内における健康問題に関する公正性の担保を、集団(地域)内外の資源を活用して実現するための学問領域
「地域完結型医療」というのは「病院完結型医療」に対するアンチテーゼとして打ち出されたたもので、地域(集団)の人々の健康問題の解決に必要なリソースは地域外にあってもかまわない
2)地域(集団)間の健康格差の縮小を目指すのは公衆衛生学と同じところではあるが、そのアプローチに公平性を求めていない
公衆衛生学・・・地域(集団)への公平な取り組みによる公正(健康格差の縮小)
地域(保健)医療学・・・他地域(集団)と公平ではないかもしれない現状を前提とした取り組みによる公正(健康格差の縮小)
奈良県立医科大学 地域医療学2016(データ分析編)(大学院看護学研究科)より

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地域と医療の統合に資する 情報活用の考え方 −不足の観点からみる医療2.10−より
未来の話
当時保健医療2035でしたが,今は2040年の話が始まってます.
2040年を展望した社会保障・働き方改革本部(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-syakaihosyou_306350_00001.html
その2040年の未来予測ですが
未来年表−ひらけ、みらい。生活総研(博報堂生活総合研究所)
https://seikatsusoken.jp/futuretimeline/
から見ることができます.

地域医療の対義語

私は,標準医療が対義語と捉えています.
しかしながらその構造は提供する医療の質の話を軸としたものではなく実践にあたっての環境および状況に関する軸として.

『標準医療とは、その時に得られている最良の医学的根拠に基づいて、それを実践する医療のことです。』
引用元・・・標準医療(友利正行先生・ともり内科循環器科)(沖縄県医師会)
http://www.okinawa.med.or.jp/old201402/healthtalk/yuntaku/2011/data/20110412n.html
標準医療を提供するにあたって,環境が標準(=実践に必要とされる地域の環境および状況)と異なる中で,4つの医療資源(人的,物的,財的,情報)を活用し実践していくこと.
人的資源が他の資源と比較にならないぐらい調整能を有するものの,一時的には対応できても持続可能性を担保するにはそのような事態を避けたデザインが必要.

2.データからみる奈良県の地域医療(二次医療圏単位)

奈良県保健医療計画における二次保健医療圏の定義
『特殊な医療サービスを除く通常の保健医療供給が過不足なく完結されることを目標として整備する圏域』
奈良県保健医療計画(奈良県)
http://www.pref.nara.jp/2740.htm

入院医療提供状況

患者調査(厚生労働省) のデータを利用.
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/10-20.html
患者調査は医療実績に基づくものではなく調査票を用いたものなので,色々考慮しなくてはならないのですが・・・
医療圏で提供出来ていない疾病分類数を抜き出して全国の二次医療圏(344)で昇順に並べると
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入院医療受療状況

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比較すると当該医療圏で提供している疾病のバリエーションより住民が受療しているバリエーションの方が多い(234/344)
スコアの平均値は20%減少,標準偏差は30%以上減
奈良県の話
西和医療圏のデータが特異的な動きをしているように見えたのではないでしょうか?
周囲にどのような地域があり機能を有しているのか.アクセス性の話であったりその地域の日常生活圏の話であったり色々思われたことと思います.
奈良県としてもしかりで例えば交通に関するデータでは以前以下のようにまとめています.
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関西国公私立医科大学・医学部アクセスまとめより

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データ分析から考える地域医療の課題より
データ分析から考える地域医療の課題 では 奈良県の県民アンケートの話やRESASの話などしました.ご興味のある方は上記リンククリックしたら閲覧できます.

3.臨床研修からみる地域医療

医師臨床研修制度における「地域医療」は必修分野(医師法第16条の2第1項に規定する臨床研修に関する省令の施行について)
医師法第16条の2第1項に規定する臨床研修に関する省令の施行について(目次)(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000081052.html
以下地域医療の経験目標の抜粋
地域医療を必要とする患者とその家族に対して、全人的に対応するために、
1) 患者が営む日常生活や居住する地域の特性に即した医療(在宅医療を含む)について理解し、実践する。
2)診療所の役割(病診連携への理解を含む。)について理解し、実践する。
3)へき地・離島医療について理解し、実践する。
とされている.
研修場所
・へき地・離島の医療機関
・許可病床数が200床未満の病院又は診療所を適宜選択して研修
・例えば、保健所等で1日から2日程度の研修を行うことは差し支えない
・各都道府県に設置されている地域医療対策協議会や、関係する地方公共団体の意向を踏まえるなど、地域の実情に応じて選定するよう配慮すること。
研修内容
・一般外来
・在宅医療
・慢性期・回復期病棟
・地域包括ケア(多職種連携)

地域によって内容そのものにバラつきがあることは必至(当然)

課題

以下のテーマいずれかについて述べよ
1)一般的に「地域医療」と言えばへき地医療と捉えられてしまう理由について考えるところを述べよ
2)地域医療研修が地域及び研修先により環境や研修内容にバラつきが生じる事を前提の研修であることを考えると,どのような事を学び今後研鑚していく必要があるのでしょうか?考えを述べよ